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とても久しぶりですね!
目が合った。一言でいえばそれに尽きるその瞬間、雪歩は大声に慣れているはずのプロデューサーが思わず耳鼻科に行きたくなるような悲鳴を上げた。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーっ!!!」
窓ガラスが震えるほどの音量の悲鳴はしかし、あろうことかやよいに耳を塞がせるという大変あっぱれな事態を招く。やよいの手はもともと例の茶色の毛玉を抑えるために使われており、己を拘束する両手が消えた毛玉は自らを襲った大変な衝撃に我を忘れたかのようにやよいの股下から転がり出て生後数日と思しきその4本の足で大地を踏みしめる。まだ目を開けていないのはおそらく生後数日だからだろうが、動物的嗅覚はどうやらしっかりと異物の進入を捕らえたようだった。ここでいう異物とは勿論今まさに腰を抜かしてケツで匍匐後退を始めた萩原雪歩その人であり、異物をどう判断したのか、毛玉は猛烈な勢いで吼え出した。
たまったものではなかった。
強烈な勢いの吼声に雪歩は声すら上げられずにケツを地面に付けたまま反転、膝立ちでプロデューサーを追い抜いて事務所の出口へと突進する。雪歩にしてみれば何が何でも今すぐにでも扉を開けて外に出てどこか遠くに行きたかったのだろうがそうは問屋が卸さない。ノブ式の扉は緊張から来る手汗で滑りに滑り、なんで開かないのかと思考をするその一瞬に後ろから再度吠えられたことで雪歩は今度こそ完全に正気を失った。
「ひぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁあぁあ!!!!!!!」
そこからの雪歩の行動は迅速の一言に尽きた。雪歩はまず開かない扉のノブをつっかえ代わりに完全に抜けていた腰に活を入れて立ち上がり、毛玉から最も距離を取ろうと壁伝いに走り出す。雪歩落ち着けとプロデューサーが言っているような気がするがどう落ち着けというのか。そうこうするうちに毛玉は高速で移動する物体の位置情報を検知、猛然と吼えかかるその声は雪歩にしてみれば火に注がれた着火剤である。もはや声にならない雪歩の声はプロデューサーとやよいの鼓膜を揺さぶりに揺さぶり、ここでようやく毛玉は雪歩に向けた特攻を開始する。雪歩も負けてはいない、更衣室までの移動路が潰されてしまったことで、雪歩は事務所の中で更衣室以外に唯一鍵のかかる扉―――社長室への移動を方針として策定する。
「雪歩っ!! 大丈夫だ落ち着け、子犬だ子犬!!」
「犬いやああああああああああああっ!!!」
もう子犬だからなどという理由は何の慰めにもなりはせず、壁沿いに障害物をよけて走る雪歩と障害物を文字通り踏み越えて進む毛玉のスピードは誰の目にも雲泥の差であって、平素から何か落ち込んだり嫌なことがあったりするとどこからともなく工業用ドリルを取り出す雪歩の細腕はここで接近する毛玉に対し極めて即物的な防衛行動を開始する。
小鳥のハンドバッグを毛玉めがけてぶん投げた。
恐るべきことに、毛玉はこれを避けた。後で分かったことだが、この時どうやら毛玉の眼は開いていたらしい。初弾をよけられることは雪歩側も織り込み済みだったのか、雪歩はその辺にあるものを手当たり次第に毛玉に放り投げる。もはや気弱なアイドルの面影は微塵もなく、その時雪歩の顔に浮かんでいたのは紛れもなくこの間事務所に出たGに対する音無小鳥の行動に酷似していた。
書類の束を投げた。避けられた。
分厚いファイルを投げた。避けられた。
「雪歩ーっ! 頼むから落ち着いてくれーっ!!」
「いやああああ来ないで寄らないで近寄らないで犬嫌いーーーっ!!!」
プロデューサーの叫びも雪歩は一向に介さない。もはや雪歩の頭の中には毛玉の進行を阻止する事以外ない。茶筒を投げて避けられ花瓶を投げて避けられ湯呑を投げて避けられ、もはや半狂乱の雪歩は身近に投げられるものがなくなり、ここで恐るべきものを見た。
視界いっぱいに広がる茶色の毛。
うずたかく積まれた書類の束をジャンプ台にして、毛玉が目測2メートルはあろうかという距離をひと飛びに詰めた。投げるものを探していた雪歩は完全に対処が遅れた。毛玉はあろう事か雪歩の顔に着地、雪歩としてはたまったものではなくバランスを崩して背面の壁にしたたかに後頭部を強打した。
ごんっ、という鈍い音が事務所内に反響する。
強烈に痛いのは恐らくこれが夢ではないからで、事実文字通り目の前でハッハッハッハッと舌を出しているのは悪魔の使いに違いなく、そして雪歩は度重なるおびただしい防衛行動も空しく、そのざらざらした舌で思いっきり顔を舐められた。

その後プロデューサーがめちゃくちゃにされた事務所内をどうにかこうにか掻きわけて事件の現場に行くと、そこには気を失って大の字に倒れ、顔という顔をべったべたに舐められた萩原雪歩がいた。
後でプロデューサーが語ったところによれば、その時の雪歩はうっすらとした笑みを浮かべていたという。
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2010.08.22 Sun l がんばれ超がんばれ雪歩 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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